月報付録 2008年3月2日発行   

  「東海教区・静岡教会前史」
   ELC宣教師の軌跡(51)
  「ミッションとの特別契約

       

一九六〇年七月に開かれた「東海福音ルーテル教会」の創立総会で採択された「東海福音ルーテル教会憲法規則」の全文を前稿は記した。

まず、第一に「憲法」、すなわち「Constitution」の原意を考えると、それは「作り上げる」という意味がそこに含まれている。つまり、「教会を築く」ということと共に、「教会を満たす」ために「憲法」が制定されるのである。ルター派教会である「東海福音ルーテル教会」としての「教会のかたち」というものを日本という宣教土壌の中で形成するために教会憲法が作製されていったのである。

第二に、この憲法はルーテル教会に所属する宗教集団の団体規約そのものであり、その団体組織の統治の在り方を示す日本のルーテル教会の規約である。日本人の牧師・信徒が主体となって、自ら「共同して創設する」という自主的展開は弱く、海外教会の全面的依存性に拠っていたにしても、ルーテル教会の教理的基盤に立ったひとつの教会組織の在り方を明確に示すことになった。

第三に、この憲法はルーテル教会の基本的原理とその正当性を教会法的に宣言したものである。

第四に、教会の一致の教理的基盤を基本信条だけでなく、宗教改革期の根本信条も掲げて、それが信仰の基本原理であり、かつ教会の存立と存続の基礎であることを明確にしている。ルター派の教派性の立場を明確に告知している憲法である。

 この憲法・規則の作成に直接的に関わった河島亀三郎は、『聖霊の歩み』(1960年発行)の中で、「東海福音ルーテル教会の憲法と規則について」と題して、次のように、この憲法・規則を解説している。

「この憲法・規則の特長をあげると、第一に、この憲法・規則の基礎は信仰であるという点である。由来ルーテル教会は信仰告白の教会であり、信条を持つ教会である、それ故私共の憲法も始めに、ルーテル教会の由って立つ信仰を掲げ、これは改正の対象にならないことを明かにして居る。

 第二、総会主義、第九条において『総会を最高の決議機関である」と規定して居る。誰か一人の権力者の独裁、または一部少数の専断にまかせるのでなく、教会員全員の合議によって一切のことがきめられる。       

 実行委員会が行政の責任に当り、教団一切の事情を処理するのであるが『総会開会中その任務を代行する』と規定し、総会を超える権限を与えられていない。

 第三の特長はこれと関連して信徒中心主義ということである。第十一条において『信徒正議員の数は全正議員の二分の一をこえねばならないと規定している。総会は按手礼を受けた教師と、信徒の代表とで組織されるものであるが、この総会において信徒数は教師の数より多くなければならないのであ。

 第十六条の実行委員数においては、二名の信徒が加わることになっているが、これは「少なくも二名」であって、三名以上が予想されることは固よりである。現在の状態や、信徒方の可能性を考慮して、最底二名は加わって頂くという意味で、その他の委員に至っては信徒方多数の御参加を得なければ、運営を円滑に進めることはできないであろう。

第四はまたこれと関連して出て来る特長で、教会運営の青任を日本の信徒が自らの自覚によって背負って立つこと即ちスチユワードンップの表現ということで、第七章の財務はこの精神をハッキリと打ち出している。私共はミッションの補助を受けている現在の状態から一歩一歩ぬけ出して、完全に自分たちの教会を自分たちでやつて行く、前向きの体勢で、牧師信者一体になつて、自給自立を日指して進み、ついには外国に宣教師を送る程のビイジョンを持ちたいものである。

 第五の点は、日本中にあるルーテル教会が合同して、日本に唯一のルーテル教会を作つて行くという見通しである。このことは容易でないかも知れない、然しこの希望の下に私共はまず強周な『東海福音ルーテル教会』として機会が出来たなら、何時でもそれに応じる態勢をととのえておく必要がある。

 ここで必然問われることは、このような憲法・規則が各個教会を拘束するカを持っているか、言いかえれば各個教会はこの東海福音ルーテル教会の憲法・規則に従わねばならぬかということである。

 キリストの教会とは、例えば静岡市音羽町にある所の眼に見える一つの聖徒のまじわりであって、ここで御言葉がのべられ、礼典が執行されるのであるが、同時に東海地域内にある各個教会の凡てを一つの教会と見ることもできるので、このような一つの総合休もまたキリストにある一体の中の一部分をなす教会である。

このような一つの総合体が憲法と規則に従って組織をとる時、各個教会は全体に対する部分となり、全体はその総合体となって相互に貢献し合うことになる。これを言いかえれば、各個教会は自分の持っている権能を東海福音ルーテル教会に委任して、これに支配の権能を持たせ、自らそれに従うことによって全体の発達と進歩に寄与し、貢献することを意味する。与えつつ受けるこの相互関係が、東海福音ルーテル教会と、各個教会との関係でありその内容をなすものは信徒と、信徒に奉仕する教職とである。」

 憲法規則が施行した、一九六〇年の秋、十一月七日、この年、新たな創設された、アメリカの教会となった「アメリカルーテル教会」(The American Lutheran Church)の日本伝道部と東海福音ルーテル教会との間で、宣教に関する「特別契約書」を交した。

 宣教師派遣団体であるアメリカの教会の合同と新たに創設された日本の教会である「東海福音ルーテル教会」の間での協約である。

 この「特別契約」には、日本の教会が一方的なアメリカ教会依存から脱出し、自主・自立の大きな海原に船出していく小さな教会の姿が描かれている。

しかも、この契約書の文面を注意深く読めば、この中には、ミッション(宣教師会)から東海福音ルーテル教会への教会財産の移譲は将来の未決の事柄としているが、日本福音ルーテル教会との合同に積極的に対応していくという基本的姿勢を持っていることが容易に理解される。

この「特別契約」の全文を日本語訳で記すと以下のようになる。

 「 東海福音ルーテル教会とアメリカ・ルーテル教会日本伝道部との間に結ぶ特別契約

 東海福音ルーテル教会が日本に於ける福音伝道の責任と特権とを担って正式に組織され、又アメリカ・ルーテル教会日本伝道部が東海福音ルーテル教会と信仰を共にし、共通の信仰告白をもつ故にこの両者は次の特別契約の下に共働することを相互に承認する。

T.宣教師団

a.            アメリカ・ルーテル教会日本伝道部(以下ミッションと云う)はアメリカ・ルーテル教会の公的な代表と認められ、従ってアメリカ・ルーテル教会と東海福音ルーテル教会(以下教会と云う)の公的連絡機関としての務めをもつ。

b.            宣教師の家屋旅行休暇言語学習子女の教育に関する問題を取扱い又宣教師相互の交わりの目的のためにミッションが存在することを教会は認めるものとする。

c.             ミッションは教会の計画や政策を決定したり取扱ったりしない。しかし教会の計画や政策を自ら理解するためにミッションはこれ等を研究討議する権利がある。

d.           教会からアメリカ・ルーテル教会に対する要求は全てミッションが伝達する。アメリカ・ルーテル教会世界伝道部の要請した場合には、ミッションにはこれ等らの要求を検討評価かる権利がある。

e.            特別な場合にミッションは教会の了解を得て伝道の新分野を定めたり伝道の新方法を自由に行う事が出来る。

f.               ミッションは、次の伝道分野に於いて財産権を保有し、教会の政策方針に従ってその責任を続行する財政・行政面に於ける教会の発展に伴って、これ等の責任と財産権はなるべく早く教会に委譲されるものとする。

一.       東海ルーテル聖書学院

二.       本郷学生センター

三.       ルーテル・アワー事業

四.       梅ケ島バイブル・キャンプの所有と維持(計画遂行は教会の責任である。) 

五.       東京のルーテル神学校への参与

六.       ルーテル文書協会への参与

七.       自動車伝道

g.            用途は不明記の贈与であってもミッションは、それを受取って使用することができる。

h.           如何なる宣教師であっても、教会の政策と慣習にそぐわない行動があればミッションは面接忠告することができる。

i.               牧師や教会指導者の海外留学計画についてミッションは次の申し合わせに従って教会を援助するものとする。

 一、この計画の目的は、すでに日本で得られた訓練を補足し、又日本では得られない訓練の機会を与えることとする。海外留学の特定の目的は明記され、厳格に遂行されなければならない。

 二、候補者は、全て教会とミッションの両者から承認されるべきである。

 三、候補者は、語学と勉学についての能力が明らかでなければならない。

 四、候補者の日本不在中、教会はその家族に対して適切な給与をしなければならない。

j.                特別な場合には、教会の了解を得て、ミッションは特別奨学生の取決めを行いそれを実行してもよい。

U.宣教師

a.            宣教師は全て最初の来日に際して語学勉強のため二年間を与えられる。

b.            宣教師として教会に認められるとミッションとの了解を得て教会が指定する任務に携わる。

c.             教会はその政策と習慣にそぐわない行動のある宣教師に対して、面接忠告ことができる。

d.           教会から認められていない宣教師であっても、ミッションの中ではその正式な一員である。

e.            教会は、明白な理由のもとに個々の宣教師の承認を取消す事が出来る。

f.               宣教師は、教会憲法とそれに附属する規則・本契約及びアメリカ・ルーテル教会外国伝道局の政策に従って教会と共働する。

V.他のルーテル教会との関 

 係

  教会は日本に於ける合同ルーテル教会の実現に努力し、現在までミッションが行ってきた交渉を今後の交渉継続を基礎として認める。

 

W.財政

 アメリカ・ルーテル教会はそれが可能で又自己の政策と合致する限りに於いてミッションを通して教会の財政的援助を行う。この援助は一年間を単位として行われる。ミッションと教会はこのような財政的援助の必要を減少させることと、出来るだけ早く教会の財政的自立を実施させるために共に努力する。

A.財産資金投与

一、                ミッションから教会に贈与された財産は、贈与の目的に従って教会が使用する。

二、                特に宣教師の使用に供される財産とTfに述べられたものを除いて財産は全て教会又はその指定する組織の名義で保存される。

三、                贈与に関しては教会総会前に教会とミッションの間で事前に協議される。

四、                不動産購入のための資金投入は、支出の必要な時に必要な額だけ贈与される。

五、                教会全体に対する不動産購入資金の贈与は、教会から各個教会に対する贈与の時と同じ条件で行われる。

六、                教会拡張資金は、その当初に述べられた目的にのみ使われる。

 B.援助金

 一、教会総会前にミッションと教会は補助金贈与に関して事前に協議する。

 二、ミッションと教会は、この援助が出来るだけ早く減少するような方法と手段とを発展させるものとする。

 三、援助金は、四半世紀毎に教会の会計に対してのみ支払われる。

 四、ミッションを通してアメリカのルーテル教会から援助金が教会に贈与されている間、ミッションは毎年教会から会計報告を受けるものとする。

X.教会とミッションの間の連絡

  教会とミッションの間の公的連絡は全て、教会の議長とミッションの議長を通してか、又はその了解の上で行われなければならない。

Y.改正

  この特別契約の記述は、教会とミッションの相互の同意があれば改正、又は終約することができる。 」